『量子とはなんだろう』(松浦壮著、ブルーバックス=B2139)
量子は五感で捉えられることの延長で理解出来る代物ではない。ただひたすら、観測結果を説明するために、高度な数学を理解した上で理解できるものなんだろう。著者はどこかで、本気で理解しようとするならば、演算を何度も繰り返して染み付けるしかないということを書いていた。自分としては、解析力学のやり直しからになるのかな。
また、行列力学、波動関数、経路積分に分けられる数式があるが、それぞれに見える世界が違うというのも興味深い話だった。小生が大学院生の時、量子力学に触れた時は波動関数のみだったかな。この辺、しっかり理解するにはかなり数学の勉強が必要になる。道は遠い。
シュレーディンガーの猫の話は確かに猫好きには耐えられん(笑)。振動数の揃い方で強まったり弱まったりしているのは、現在仕事で扱っている電磁気の性質に似ていると思った。「同じ粒子に区別はない」から、二つの粒子が例えば上向きと下向きを取り得るとするならば、「上上」「下下」「上下」はそれぞれ1/3の確率で現れるというのは奇妙きてれつだが、そう飲み込むしかないよな。皮膚感覚と一致するように構築されている古典力学とは全く違う。
十分に理解出来るものではないと正直思ったが、「ベルの不等式」という一見観念的な問題が、実験的に白黒つけられる問題であることが明らかにされる論理展開はエキサイティング。「皮肉なことですが、天才アインシュタインが本気になって量子力学を叩いてくれたお陰で、量子力学は強烈に鍛錬されて筋金が入りました。」(p241)
量子コンピュータは、量子力学の原理を応用したものであるが、重ね合わせとかやっぱり難しい。発生するエラーの補償(今の電子コンピュータも当然しているし、その原理も説明されている)の方法が興味深かったな。トポロジーを巧妙に使うそうだ。今のコンピュータとは原理が違うそうな。で。このエラーの補償が今のところネックで、使える範囲が狭いみたいだ。量子力学が常識になるとき、世界はもっと変わるだろう。但しそれは皮膚感覚が変わる、社会革命を必要とするだろう。

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