山田義帰『空蝉』(麻布書院、2019年)は子どもを失った母親が退行催眠を受けて、前世からの人間の縁を感じる物語である。
前世と言うと、現世に不満を抱えている人の逃げ場所としての物語が少なくない。逃げ場所であったとしても、当人の救いになれば意味はあるが、本書は前世の人間関係が現世に反映している。前世を大切にすることは現世を大切に生きることになる。
催眠療法と言えば韓国では『82年生まれ、キム・ジヨン』がベストセラーになった。催眠療法によって抑圧された社会的不合理が明らかになる。本書でもブラック企業での過労自殺が登場しており、この方向性かと思われたが、大きく異なっていた。社会問題に目を向ける韓国と周囲の人達と絆を深める日本という両国の性格の相違が感じられる。
主人公は京都の人で京都弁を話す。女性の京都弁と言えば舞妓さんというステレオタイプなイメージがあるため、不思議な感覚を覚えた。

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