「向田邦子」の
『隣りの女』を読みました。
「向田邦子」作品は2月に読んだ
『きんぎょの夢』以来ですね。
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「一生に一度でいい、恋っての、してみたかったの」――
平凡な主婦が飛び込んだNYへの恋の道行… 西鶴の現代版ともいうべき人妻の恋の道行きを描いた表題作
『隣りの女』をはじめ、嫁き遅れた女の心の揺れを浮かび上らせた
『幸福』、
『胡桃の部屋』、異母兄弟の交流を綴った
『下駄』、そして著者の絶筆となった
『春が来た』等、短篇の名手の傑作五篇を収録。
温かい眼差しで人間の哀歓を紡いだ短篇集。
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本作品には昭和55年から昭和56年に発表された以下の五篇が収録されており、
「向田邦子」の最晩年の作品集となります。
(昭和56年8月の航空機事故で逝去)
■隣りの女
■幸福
■胡桃の部屋
■下駄
■春が来た
「向田邦子」の集大成ともいえる短篇集なんでしょうね。
小道具の使い方や、ちょっとした比喩の使い方の巧さは、相変わらずさすがだなぁ… という感じがしましたね。
そして、男女の心の機微の捉え方が抜群に巧い… 論理的には説明できない、そんな男女の抑えきれない気持ちが巧く表現してありますよねぇ。
読んでいると、いつの間にか登場人物に感情移入してしまっている、そんな感じの五編でした。
『隣りの女』
主人公の
「サチ子」の気持ち、夫
「集太郎」の気持ち、それぞれに感情移入してしまったなぁ。
自分だったらどうしたんだろう… と、ついつい考えちゃいます。
内職のミシンの音や、谷川岳へ向かう列車の駅名、
「サチ子」の
「谷川岳にのぼってきます」というメモ、
「集太郎」の
「実はおれも麓までいったんだ」、
「のぼるより、もどる方が勇気がいると言われたよ」という台詞・・・ 印象的でした。
『幸福』
この結末、、、
「素子」の
「数夫が手を放さなかったら、一緒に数夫の家へゆこう。」という選択は、うーーーん… って感じがしましたが、これも幸福のひとつなのかもしれませんね。
『胡桃の部屋』
父親が家を出たあと、女だてらに父親気取りで、部隊長みたいな顔をして、号令かけて… 残された家族のことを思い、気持ちの張り詰めた生活をしていた娘の
「桃子」。
その張り詰めた糸が切れたときに出てきた涙… わかるなぁ。その気持ち。
でも、その後、ネガティブにならず、過去を吹っ切って、気持ちを切り替えるところは、
「向田邦子」作品らしいエンディングでしたね。
『下駄』
珍しくミステリーっぽさを感じさせるエンディングの作品。
突然、自分の弟だという人間が現れたら… キチンと世話をしてやりたい気持ちと、鬱陶しい気持ちの間で、複雑な心の揺れがありそうです。
『春が来た』
家族には春がやって来たけど自分には… ちょっと切ないけど、自立した明るい未来を予感させる作品でした。
貧しいけど、濃密な家族の雰囲気に圧倒されながらも憧れる気持ちはわかる気がしますね。

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