「松本清張」の短篇集
『火神被殺』を読みました。
『渡された場面』、
『絢爛たる流離』に続き
「松本清張」作品です。
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松本清張没後二十年、絶妙の推理作品再び。
古代史の造詣を巧みに駆使した表題作
『火神被殺』、
『神の里事件』。
ブリュッセル土産のテーブルクロスが愛憎劇の鍵をにぎる
『葡萄唐草文様の刺繍』。
何が誠で何が嘘なのか、無罪判決の事例研究に想を得た裁判小説
『奇妙な被告』。
清張自身の幼年期の想い出がこめられた
『恩誼の紐』 ―傑作推理短篇・五篇を収録。
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「松本清張」得意の古代史に関する知識を織り交ぜたミステリを含む、バラエティに富んだ五篇で構成された作品です。
■火神被殺
■奇妙な被告
■葡萄唐草文様の刺繍
■神の里事件
■恩誼の紐
■うしろがき
■解説 真山仁
『火神被殺』は、出雲を中心とした古代史の論考と殺人事件を絡めた物語、、、
『古事記』と
『出雲風土記』をネタに、神話における神による神殺し(
「イザナミノミコト」の死)と死体の状況が巧く絡めてあるものの、神話や古代史の知識や興味がなくても愉しめる作品になっています。
個人的には、事件の舞台となる島根は、昨年まで住んでいた土地だったし、出雲大社や熊野神社、八重垣神社等、何度も足を運んだことのある場所が登場するので、興味深く読めました。
腰の部分が欠落したバラバラ白骨死体、犯人と思われる人物が泊まった宿帳の書き換え… そして、事件の動機が見事に繋がって行く終盤の展開が面白かったですね。
序盤に死体の性別をミスリードさせる展開が巧いと感じました。
『奇妙な被告』は、海外の無罪判決事例に着想を得た裁判モノ、、、
金貸し
「山岸勘兵衛」が自宅で撲殺された事件の容疑者
「植木寅夫」は、警察で取り調べを受けた際、積極的に(虚偽の)自白をするが、その後、発言を翻し無実を主張… 自白は警察と検察に強要されたものだと訴えた。
弁護士の
「原島」は国選弁護人として
「植木」を弁護… 裁判の結果、証拠不十分で
「植木」は無罪となるが、その後、
「原島」は
「植木」が過去に
『無罪判決の事例研究』を読んでいたことを知る。
警察や検察に詰めの甘さは感じられるものの、駆け引きが面白い作品でしたね。
『葡萄唐草文様の刺繍』は、愛人が何者かに殺害されたことから、いつ警察に疑われるかと不安と恐怖に駆られる男の物語、、、
会社社長の
「野田保男」と妻
「宗子」は、ヨーロッパ旅行をした際、ベルギーのブリュッセルで葡萄唐草文様の刺繍のある高級なテーブルクロスを2枚購入…
「保男」と
「宗子」に内緒でもう1枚購入し、愛人
「奈津子」に贈ったが、3ヵ月後、
「奈津子」が自室で殺害され、葡萄唐草文様のテーブルクロスは殺害事件前後に消えていた。
幾つかの幸運が重なり、
「保男」は警察からマークされていなかったのですが、それを知らない
「保男」は、不安から隠蔽工作を行おうと画策するところが面白かった。
結果オーライでしたが、一歩間違えば、殺人犯として疑われかねない事件、、、
そう考えると怖いですねぇ… 心理描写が秀逸でしたね。
『神の里事件』は、
『火神被殺』と同様に古代史と殺人事件を絡めた物語、、、
宗教団体が持つ宝鏡を見せてもらおうとした友人が宝物殿で殺されたことから、事件の真相を探る内容ですが、
『播磨風土記』等に興味がないと少し読むのがしんどい内容でしたね。
女性教祖と、その従妹の巫女、そして友人と同日に殺された男性の教務総統… この三人の男女の絡みは、動機としては面白いのですが、宗教団体内のトラブルに巻き添えを食らった方はたまりませんよねぇ。
『恩誼(おんぎ)の紐』は、
「松本清張」の私小説風な物語、、、
本書に収録されている作品の中でイチバン印象に残ったし、妙にリアル感があって怖いなぁ… と感じさせる作品でした。
九歳の
「辰太」(
「松本清張」の幼年期がモデル?)は、しっかり者の母親と二人暮らし、、、
父親は外に女をつくり、金を無心するときだけ戻ってくる… そんな貧しい生活の中、
「辰太」は、住み込みで女中をしている祖母のところへ通うことを楽しみにしている。
「辰太」は、祖母が仕える邸宅の奥さんから、祖母を自由にさせてあげようと考え、奥さんを殺害、、、
真相は発覚しなかったが、その幼年期の経験が成人した
「辰太」の精神面に影響を与え… 結婚生活に不満を感じ、離婚したくなった妻に手をかけてしまう。
日常でも起こり得そうな内容だけに、背筋がゾクっとする怖さがある作品でした。
『うしろがき』は、
「松本清張」本人が、本書に収録されている五篇に関連する経験や着想をエッセイ風に描いた作品、、、
それぞれの作品の背景を知ることができて面白かったですね。

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