「池井戸潤」の談合をテーマにしたエンターテイメント作品
『鉄の骨』を読みました。
『銀行総務特命』、
『架空通貨』、
『アキラとあきら』、
『仇敵』、
『オレたちバブル入行組』に続き
「池井戸潤」作品です。
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第31回(2010年) 吉川英治文学新人賞受賞
会社がヤバい。彼女とヤバい。
次の地下鉄工事、何としても取って来い。――
「談合」してもいいんですか?
中堅ゼネコン・一松組の若手
「富島平太」が異動した先は
“談合課”と揶揄される、大口公共事業の受注部署だった。
今度の地下鉄工事を取らないと、ウチが傾く――技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする
「平太」らの前に、
「談合」の壁が。
組織に殉じるか、正義を信じるか。
吉川英治文学新人賞に輝いた白熱の人間ドラマ!
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雑誌
『IN★POCKET』の2007年(平成19年)5月号から2009年(平成21年)4月号にかけて連載された作品で、第142回直木賞候補作、第31回吉川英治文学新人賞受賞作です。
2010年(平成22年)7月よりNHKでテレビドラマ化されたらしいですね、、、
文庫本で650ページのボリュームのある長篇作品です。
■第一章 談合課
■第二章 入札
■第三章 地下鉄工事
■第四章 アクアマリン
■第五章 特捜
■第六章 調整
■第七章 駆け引き
■終章 鉄の骨
■解説―談合は何故なくならないのか、そして「走れ平太」 村上貴史
中堅ゼネコンの一松組に入社して4年目の
「富島平太」はある日突然、業務課への異動を命じられる… 大学の建築学科を卒業し、入社以来現場を担当してきた
「平太」にとって、営業を担当する業務課は正に畑違い、、、
着任早々、先輩
「西田吾郎」に連れられて区役所への挨拶に向かった
「平太」は、公共工事の最低入札価格や指名入札業者の数に探りを入れる
「西田」と役人とのやり取りにはらはらする… その日の夜の飲み会で
「平太」は、業務課が通称
「談合課」と呼ばれる部署であること、談合がなければ建設業界は立ち行かないため談合は
「必要悪」であることを聞かされる。
談合は本当に悪なのか、
「平太」の苦悩の日々が始まる… 時を同じくして、2,000億円規模の地下鉄敷設という大型公共事業の情報が入る、、、
一松組は独自技術によりコスト的優位に立つが、社内外のしがらみから、一松組そして
「平太」も談合に関わらざるを得なくなる… 地検特捜部が水面下で捜査を進める中、この大型公共事業の入札が始まる。
入札の結果は… そして一松組と
「平太」の運命は!?
大型公共工事の入札に絡んで、談合の調整役として知られ
「天皇」と呼ばれる業界の大物フィクサー
「三橋萬造」とのやり取りや、道路族の大物議員
「城山和彦」の談合を利用した裏金工作をターゲットにした東京地検特捜部の捜査が重層的に描かれ、優れたエンターテイメント作品として仕上がっていましたね。
そして、並行して描かれる
「平太」のプライベートな悩みの部分が、微妙に一松組やその関係者と絡んでくる展開となっている展開が巧い…
「平太」の恋人で、一松組のメインバンクである白水銀行で働く
「野村萌」とのゼネコンと銀行という職場の違いからくる価値観のズレと心のすれ違い、そんなタイミングで彼女と同じ職場のエリートバンカー
「園田俊一」が彼女の恋人候補として浮上したり、
「平太」の母のくも膜下出血による入院と、そこで母と
「三橋」の関係が明らかになったり等、
「平太」とシンクロして心を揺さぶられつつ、にどっぷり感情移入しつつ読み進めました、、、
談合って、必要悪なのか、徹底して排除すべきものなのか… それぞれの立場、視点で考えるイイ機会になりました。
面白かったです… 650ページを長いと感じなかったですからね。
以下、主な登場人物です。
<一松組>
建設部門と土木部門がある中堅ゼネコン。
バブル崩壊の激動期を乗り切ったが、不況の波を脱しきれず、業績不振が続いている。
「地下鉄の一松」の異名を取るほど実績があり、地下鉄に関する技術やノウハウは世界一である。
「富島 平太(とみしま へいた)」
大学(建築学科)卒業後、一松組へ入社。現在4年目の若手。信州上田市出身。
大手ゼネコンを何社か受けたが、全て不採用だった。突然、専門外の部署である業務課に異動を命じられる。
「西田 吾郎(にしだ ごろう)」
業務課。一見お調子者だが、仕事のできる男。業務課の実務を支えている。平太の良き先輩。
「尾形 総司(おがた そうじ)」
常務。将来の社長候補と言われる。平太の業務課への異動を推した。
元は、大手ゼネコン・清水組の役員。
一松組の二代目社長を支えるために、初代会長に三顧の礼を以て迎えられた。
「松田 篤(まつだ あつし)」
社長。創業家出身のボンクラ。
「永山 徹夫(ながやま てつお)」
54歳。バツイチ。平太の建設現場時代の上司。
ずんぐりむっくりした体型。社内では「マンションの永山」と異名を取る。
「柴田 理彩(しばた りさ)」
業務課の紅一点。勝ち気な性格。
「兼松 巌夫(かねまつ いわお)」
業務課課長。一見頼りないタイプ。
「金本 政志(かねもと まさし)」
営業部長。営業畑一筋。ストライプ・スーツにサングラスがトレードマーク。
「仁王 龍彦(におう たつひこ)」
生産本部土木技術部特殊工法グループ係長。トンネル工事のスペシャリスト。
名前の通り、金剛力士を思わせる大男。
<白水銀行>
一松組のメインバンク。
「野村 萌(のむら もえ)」
平太の彼女。
大学のテニスサークルで一緒だったが、付き合うようになったのは互いに社会人になってから。
新宿支店の為替係。
建設業界の常識に染まっていく平太と心が離れ、同時に銀行的な視点と平太にない大人の魅力を持つ園田に惹かれてゆく。
「園田 俊一(そのだ しゅんいち)」
新宿支店融資課。萌より4歳年上。マクロ的発想を持っており、萌の知的好奇心を満たす。
萌に彼氏がいることを知りながらも好意を持ち、強くアプローチして行く。
育ちの良いエリート銀行マン。一松組とそこに勤める平太を見下している。
「高橋 瑠衣(たかはし るい)」
萌の同期。園田のことが好き。
「江坂 禎治郎(えさか ていじろう)」
新宿支店長。一松組への融資を渋る。
<建設業界>
「山本(やまもと)」
トキワ土建社長。43歳。5年前に大手ゼネコン真野建設を中途退職し、トキワ土建を興した。
「和泉 勇人(いずみ はやと)」
中堅ゼネコン上位のタキザワ建設専務。関東の道路工事を仕切る、談合の「ドン」のような存在。
「三橋 萬造(みつはし まんぞう)」
山崎組の顧問。巨大な公共工事を取り仕切り、「天皇」と呼ばれる業界の大物フィクサー。
佐久穂町生まれで、平太の母の実家のことも知っている。妻・美津子は城山の妹。
古い業界体質を嫌っており、公共工事は公正な競争で決めるべきだと考えており、城山と度々衝突する。
「長岡 昇(ながおか のぼる)」
大手ゼネコン真野建設の営業部長。JVで地下鉄工事の落札の調整を三橋に頼む。
<その他>
「城山 和彦(しろやま かずひこ)」
当選8回を誇る、道路族の大物議員。
与党の国対委員長も務めたことがある党の重鎮だが、政治資金に関する生臭い噂が絶えない。
「内藤 肇(ないとう はじめ)」
東京地検特捜部長。庁内でも一目置かれる実績の持ち主。

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