「熱で魘されている彼の寝顔を見ていると、何だかムラムラします・・・襲ってもいいですか?」
高また
高また後半
何だろう、この高杉・・・カッコよすぎないか?www
「飯、食えそうか?」
また子はしばらく考えるように目を瞑っていたが、眉間に皺を寄せると小さく首を横に振る。
「すいませんっす」
「病人が謝るな。無理に食って調子が悪くなっても困るだろうが」
思わず、乱暴な口調になってしまい、ハッとした高杉だがまた子は熱の所為か、それとも盲目的な恋ゆえか、あまり気にした様子もなく、むしろ「らしい」高杉の言動ににまぁと笑っている。
彼女の顔を見て、呆れ気味に頭を掻いた彼は傍らの盆に載せた土鍋を見やる。
全国指名手配犯のくせに自分の足でコンビニで買ってきて、電子レンジで温めたレトルトの粥が入っているのだが、食欲がないのでは無理に食わせても仕方ない。
そう思いつつも、横の薬に目をやる。
しかし、何も食わないと薬を飲ませられない。
ゼリーか何かあればいいのだが、彼女の額から手を離して立ち上がった高杉はそんな事を考えながら部屋に取り付けの冷蔵庫の扉を開けて中を覗きこんだ。
「?!・・・・・・おいおい、何だよ、こら」
高杉は絶句する、冷蔵庫の中には缶ビールが山積みになっていた。まともな食べ物の影は一見しただけでは見つけることが出来ない。
料理をしない、できない女だと知ってはいたがここまで“すっからかん”だと呆れすぎて言葉も出てこなくなる事を高杉は生まれて初めて知った。
溜息を漏らしつつ、中身を探っているとリンゴが一個、転がり出てきた。袋詰めで¥200の痛んだリンゴと違い、ちょっと値の張る品種のリンゴだ。
「おい、これは?」
「? ああ、この前、武市変輩に頼まれてネギを買った時、おまけで貰ったんす。
やっぱり、可愛いと得っす」
「これ、貰うぞ」
「どうぞっす」
高杉は腕まくりをすると、こじんまりとした台所に立つ。そこもまた、使った形跡が少ない。幹部衆の部屋はかなりの設備を整えているのだが、ここまで使われていない台所も可哀相な話である。万斉の台所だってもう少し、料理油や調味料の匂いが染み込んでいたものだ。
高杉は最早、溜息も出ない。
あるかどうか判らない包丁を探すのも面倒なので、懐の短刀でよく洗ったリンゴの上の部分2cmを真横にスパッと切り、スプーンで下1cmが残るように芯をくり抜く。
開けた穴へと砂糖をぎっしりと詰め込み、ラム酒を数滴落とし、砂糖の上にバターを乗せて捨てずに残しておいた部分でフタをする。
ほこりを払って、使える事を確かめたオーブンの天板にリンゴを乗せて熱湯を1cm張ると、オーブンに入れて180℃に設定し、スイッチを押す。
あとは時々、焼成を止めて汁をリンゴにかけてやりながら一時間。
そして、ついに焼きリンゴが出来上がった。
「横になったままでいいから食え」
「うわぁ」
鼻腔をくすぐる甘い蜜の香りにまた子の頬が自然と緩んでしまう。
「いただきまーす・・・・・・!! メチャクチャ美味しいっす」
「当たり前だ。俺が作ったんだぞ」
まだ道を分かってしまう前、共に死地で戦っていた頃、銀時が風邪を引いてしまった自分の為に作ってくれたそれ。
意外と作り方を覚えているものだ、と彼は自嘲気味に笑った。
「ごちそうさまっす」
ぺろりと平らげた彼女は満足気だ。
「さ、薬、飲め」
「う」
明らかに苦い味だと判る色合いと激臭のする薬(しかも、粉)を出されてまた子の眉がきつく顰められた。
「苦そうっす。シロップにしてくださいっす」
「お前な、いい年こいた女が・・・」
ぴぃんと彼女の額を指で弾く。
「だって・・・・・・じゃあ、頑張って飲んだら・・・」
不意に彼女は熱ではなく、違った理由で頬を赤らめてもじもじと身をくねらせ始めた。
「何だ?」
「飲めたら・・・キスして欲しいっす」
いよいよ恥ずかしくなったのか、布団で真っ赤な顔を隠して、そぉと上半分だけ出した彼女はぼそぼそと呟いた。
「・・・いいぜ」
「やっぱ、ダメっす・・・え、いいんすか?!」
「ちゃんと飲めたらな」
その言葉に飛び起きるや否や、彼女は高杉の手から薬と水の入ったグラスを奪って一気に喉の奥底へと無理矢理に流し込むようにして飲んでしまう。
「げほっげほぅ」
「おいおい、大丈夫か?」
高杉は慌てて、咳き込む彼女の背を擦ってやる。
「だ、大丈夫っす」
ようやく落ち着いたのか、ほぉと息を漏らした彼女は爛々と輝いた目を高杉へと向けた。
「じゃ、晋助様、約束っすよ・・・んぅ」
彼女は目を閉じると、少しだけ唇を突き出すように顔を前へと出した。
Chu
「ちょ、額じゃなくてこっちに」
彼のしたキスに、彼女は不機嫌そうに頬を膨らませると自分の唇を指差して、高杉を押し倒さんとにじり寄るも額を指で弾かれてしまう。
「何処にとは言ってねぇだろうが」
「う、それは・・・そうっすけど」
じんじんと痺れる額を押さえたまた子は彼の言葉に押し黙ってしまう。
「ほれ、寝ろ」
「うううううう、詐欺っすよ」
うっすらと涙を浮かべた彼女を見て、思わずむらっと来た高杉は唇をそっと重ねた。
「・・・きっちり治したら唇じゃなくて全身にしてやるから、今はこれで我慢しとけ」
唇を押さえてぱぁと明るくなるまた子と自分のセリフで頬をかぁと真っ赤にする高杉。
「じゃあな、大人しくしてろよ」
「晋助様」
部屋を出て行こうとした時、また子はふと疑問を口に出した。
「何で吸わなかったんすか、煙管」
「風邪ひいてる女の前で喫煙するほど、俺は無慈悲じゃねぇ」
「へへへ、優しいっすね」
「バカヤロウ。とっとと寝ろ」
部屋を出て少し歩いた彼は不意に壁に背中を預けて懐から出した煙管を咥えようとしたが、寸前で熱のこもった唇をそっと指で押さえた。
その後、高杉と廊下で擦れ違った何人かの部下はこう証言する、「高杉さんは珍しく、上機嫌そうだった」「妙に頬が緩みがちだったけど、何かあったんでしょうか」と。
追記
「万斉、晋助様はどこっすか?」
「おや、また子殿、調子はもういいのでござるか?」
「ばっちりすよ。で、高杉様は?」
「・・・・・・晋助なら自室で床に臥せっているでござる」
「?」
「風邪を引いて寝込んでいるんでござるよ」
「!?」
「全く、この忙しいときに。何処かの誰かと風邪を移されるような事をしたんでござろうな」
「ちょ、何で私の顔を見るっすか」
「いや、別に他意はないでござる」
「晋助様、待っていてくださいっす。
今、お粥を作って看病しに行くっす」
「あとで見舞いに胃薬を持っていてやったほうがいいでござるな」

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