「国益」とは何でしょう?
「国にとっての利益」だという人もいるでしょうが、ではその具体的な中身はなんですか?
よく耳にするのは「外国からの(武力)攻撃からの防衛」だとか「天然資源をめぐって、隣国との競争に勝利すること」などで、主に外交・防衛問題として扱われることが多いようです。
特に前者の「防衛」問題は、「国益」についての議論が最も激しいところではないでしょうか?
今回は「国益論」の一側面について考えてみたいと思います。
それはイラク戦争をめぐって現れたことです。
日本政府は「国」として、イラク戦争を支持しました。
そして現在も事実上の軍隊(いちいち説明するのもばかばかしいことですが、世界中で自衛隊が軍隊でないと思っている国は、「よっぽどお人よしの国」以外ありません)を、戦場であるイラクに派遣しています。
イラク戦争に関しての「国益」は「イラク戦争を支持すること」になりました。不支持は国益に反する=支持しない者は非国民という図式になりました。
イラク戦争自体は、国連加盟191カ国のうちのほんの一握りの諸国によって行われ、それを支持した国もわずか49カ国、「大規模戦闘終結後」に「復興支援」等を名目に部隊を派遣した国は最大時で37カ国、それが現在では20数カ国、そして今年中にはさらに多くの国が部隊撤退を予定しています。
日本人はこれまでにイラクで5人が殺害され、人質となったが生還した人も数名います。
それでも日本政府は自衛隊を撤退させようとしません。なぜなら「自衛隊派兵=国益」だからです。
国民が命を落とそうと、危険にさらされようと、「そんなことは知ったことではない」「危ないところに行ったお前が悪い」というのが日本政府の立場です。
(ここでは、「おいおい、ちょっと待てよ。イラクを危険にしたのは侵略戦争を始めた米英豪などで、さらにそれを支持して軍隊を送った日本をはじめとする国じゃないか」というのは脇に置いておきます)
要するに「国民の命≠国益」という概念は日本政府には存在しません。
果たしてこれは国際標準なのでしょうか?
フィリピンの例を見たいと思います。
フィリピンはイラク戦争を支持し、「戦後」部隊を派遣しましたが、2004年4月、同国人がイラクで誘拐されたことで、その人質解放の条件だった部隊撤退を決断しました。
その時、同国のアロヨ大統領はこう言いました。
「8人の子どもの父親であるアンヘロさんは、ごく普通の、希望と機会を求めて海外で汗水流して働くフィリピン人の象徴となった」「中東に100万人、世界中に800万人以上の海外労働者を抱え、わが政府はいかなる場所であれ彼らが住み、働くところでの幸福に深い国益を感じている」「危機にある同胞の生命を救うために部隊撤退を決断した。後悔はない」
フィリピンは貧しい国で(以下のデータ参照)、多くの国民の生活が海外労働者からの送金にかかっているという事実があります。そして国が率先して、このような労働者を保護する仕組みを持っています(ここでは、フィリピン政府の経済政策の可否についてはコメントしません)。
フィリピン(2003年度)
人口 8108万
海外労働者 約800万
GDP 801億ドル
海外送金 76億ドル
一人あたり国民総所得 1080ドル
日本(2003年度)
人口 12668万
GDP 43264億ドル
一人あたり国民総所得 401万9000円=約38276ドル(あくまで単純計算で、僕にはそんな所得ありません)
両国政府はともにイラク戦争を支持し、その後部隊を派遣するという共通点を持っていますが、違いは、それぞれの国民の命をどう捉えるかにあります。
香田証生さんを誘拐したグループも自衛隊の撤退を要求しましたが、政府は「即座に」撤退を否定しました。結果はみなさんご存知のとおりです。
この両国の違いはどこにあるのでしょうか?
僕は、「国家を国民の上に置く」のか「国民を国家の上に置くのか」の違いが端的に現れた例ではないかと思っています。
「国家=政府が決めたことは、間違いであろうと何であろうと、外からの意見によって変更されることはない」という宣言です。
いま、「自衛隊イラク派兵差し止め訴訟」をたたかっているグループがあります。

(僕の書いた記事をUPしてくれています。どこにあるか探してください。「リンク」をクリックすると、全国の同様のグループの活動が見られます)
裁判所は「イラク派兵によって個々人の利益を損ねるとは判断できない」もしくは「高度な政治的判断」を理由に訴えを棄却するでしょう。
しかし不条理なことに対して相手が誰であれたたかう。それは国際法に反する判断をした国に住む者として、その国家の誤りを正すという、真に「愛国的」(僕はこういう言葉は嫌いですが)な態度ではないでしょうか? 実際、コスタリカでは同様の裁判で原告=国民の側が勝利し、政府はイラク戦争支持の撤回、有志連合からの離脱を決定したのです。
歴史は一人一人の人間が作り上げるものだと思います。日本だけを見ていると、お先は真っ暗ですが。。。

0