『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』(村山斉・聞き手は高橋真理子、朝日新書=400)
最新の天文物理学の成果について、伝えようという姿勢が気持ちいい本。
話者は東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)の村山斉氏。聞き手は朝日新聞の科学部門の編集委員である高橋真理子氏。聞き手の整理の仕方が素晴らしいと思う。聞き手がかなり専門的なことを理解されているからこそ、この本があるのだと思う。例によって興味深いところを。
序章は「地上最大の実験装置」と題して。宇宙で起きていることの測定方法は、今は大きく分けて二つある。
・加速器は、今や一周約27km(ジュネーブ近郊のLHC)まで来た。宇宙で何が起きているのか、地上で実験するのだ。
・一方、宇宙で起きていることを直接観測するのがカミオカンデなど。陽子の崩壊って、10の34乗年に一度の頻度(半減期?)。
・陽子同士をぶつけるのは、昔から疑問だったが(電場の中は同じ方向に飛ぶやん!)、やっぱりかなりややこしいことをしないといけないんだな。
・最後は線を絞りまくるが、陽子なんて無茶苦茶小さいので、1000億個のうちの10個くらいしか衝突しない。
・500兆回ぐらい起きた衝突の中から、数十個のヒッグスを探す。画像処理なんかで、物凄くコンピュータが進化していないと出来ない解析だと聞いたことがある。
第1章は「ヒッグス粒子に迫る」と題して。
・セルンで2012年7月4日でヒッグス粒子発見の報。二グループ(ATLASとCMS、日本人はATLASに)、独立で、独立の方法で、共通の実験装置を用いて発見して確認。
・物理の世界では5シグマ(99.999%)の確証かよ!2011年の「発見」では3シグマであり、否定された。
・ヒッグス粒子が予言されたのは1960年代。
・ヒッグス粒子には標準模型ってのがあり、それにピタッと当てはまると「ザ・ヒッグス粒子」、だが、標準模型に疑念を持っておられる方も一杯いて、別のモデルのヒッグス粒子ならば「Aヒッグス粒子」となるらしい。
・素粒子が何者かを知るには、それをぶっ壊し、かけらを分析する。ヒッグス粒子ならば、スピンがないので、スピンによる偏りがないらしい。村山さんは「のっぺらぼう(顔なし)」と言う。
・セルンの実験では、見つかった粒子の重さと壊れ方が理論と一致しているらしい。スピンは0か2だが、2は2.7シグマで否定された。
・ヒッグス粒子は「神の粒子」と言われるが、元々は「Goddam particle」。レオン・レーダーマンの著書の題だが、これじゃああんまりだということで、出版時に「God particle」に変わったらしい。
・クォークは陽子の中を光速近くで飛び回っている。これでエネルギーがあるのは分かりやすいが、電子は止まっていてもエネルギー(質量)がある。どうして?に答えを与えてくれそうなのが、ヒッグス粒子。
・ヒッグス粒子は宇宙に満ちている液体のようなもので、これにコツンと当たって抵抗を受けると重力となる。何か、大昔のエーテルみたいだな。
・で、ぶつかると光速で飛べなくなるから、質量があることになる。ヒッグス粒子がなくなると、あらゆる物質が光速で飛び散る。
・その宇宙に満ちているヒッグス粒子をエネルギーを集中して、弾き飛ばしたのが今回の実験というわけだ。
・飛び出したヒッグス粒子はすぐに壊れる。(ヒッグス粒子と衝突するから?)出てくるものは何か、完全には分からないが、ある質量のヒッグス粒子ならば、光二つとか、ある程度は分かるらしい。
・ビッグバン直後にはヒッグス粒子は動き回っていたらしいが、4000兆度以下になると凍り付いて秩序を作った。これがヒッグス場。そして、電子はコツンコツンと当たり、光速で飛べなくなり、原子が出来た。
・素粒子には三種類ある。クォーク、ニュートリノ、電子などの物質を作る粒子、光子、グルーオンなどの力を伝える粒子、そして秩序を作るヒッグス粒子。
・エーテルとの差異は、「誰が見ても同じように見える」(p69)ところ。少なくとも、相対性理論を満たしているのだ。
・一番重いトップクォークはヒッグス粒子と反応しやすい。反応するとヒッグス粒子同士に引力を作る感じになり、軽くなって検知しやすくなる。だが、今回は、軽いヒッグスが真空に集まり、重くなったものが見つかった。
・検出装置はATLASとCMSで別。
・装置維持者は24時間オンコール。
・エネルギーは今、8Tev。次は13Tev。接触不良で失敗したことがあるから、チェックはかなり入念に。
・検出器を作るのに10年!
・電子と陽電子をぶつけようとしているのがリニアコライダー。ぶつけやすいらしい。日本では地盤がしっかりしている北上山地か背振山地に作るらしい。
・ホーキングはヒッグス粒子は見つからないと言っていたらしいが、村山さんもかつては「ない」と考えていたらしい。確かに、ここまで書いた説明を読み返しても、直感的に変だ、エーテルっぽいよ、と思うもんなあ。
第2章は「光より速いニュートリノの顛末」と題して。
・セルンからグランサッソにニュートリノビームを飛ばしたところ、高速を超えたという報道は記憶に新しい。要する時間は0.0024秒だが、6.5×10^8秒早くついた。このくらいの誤差、今の技術ならお茶の子さいさいで測れるらしい・・・。
・結局、コネクターの接触不良による測定誤差だったとのこと。
・元々は、OPERAというニュートリノ振動を調べる実験だったらしい。
第3章は「不確定性原理と「科学者の降参」」と題して。
・ハイゼンベルグの不等式は小澤の不等式に塗り替えられた。こんなことが可能になったのは、徹底した思考と分析技術の向上による。
・「世界で最も美しい実験(二重スリット実験)」。どうして、確率的挙動の結果が、一つ一つは点に集約するのだ? 確率的挙動に見える奥底には「サイコロ遊びをしない」法則があるのかも知れない。
http://www.first-tonomura-pj.net/commentary/holography/
・不確定性原理で記述できる世界では、真空でも、揺らぎによってエネルギーを「借りる」ことが出来るのだ。ΔEΔt〜h~くらい(不正確)
・ビッグバンもそういうこと、、、らしい?? 宇宙が出来たら、インフレーション。
・「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」(ガリレオ)
・自然に降参するのが科学者。
第4章は「宇宙は4%しかわかっていない」と題して。
・元素の確定は、元素固有のフラウンホーファー線で。宇宙からの光もこれで観測すれば、天体の表面のガス成分も分かる。中は、ニュートリノ観測=スーパーカミオカンデ。これで太陽の中で核融合が起きていることを確認。1日5個しかニュートリノは捕捉できないらしいけど。
・2003年ごろ、宇宙の中で我々が把握できている質量は、4%だけじゃないかという疑念が。何か分からない暗黒物質や暗黒エネルギーで満ちているのではないか、と。
・宇宙背景放射を最初に観測したのは、ベル研の電波技師。鳩のフンなどを徹底的に取り除いても、宇宙からノイズが来ているよ? 2.7Kの黒体輻射。
・銀河を見まくり、色を観測しまくり、渦巻銀河が内のほうも外のほうも同じ速度で動いていることを発見。ケプラーの第二法則が当てはまらない。そこから、暗黒物質があるのではと考えられた。
・物凄く伸びきった銀河があり、おかしいと思って考えたら「地球に届く光が暗黒物質で曲げられたせいでは?」と考えたようだ。銀河同士の衝突を観測して、ガスの挙動をシミュレーション解析。暗黒物質は素粒子ではないか、という話に。その素粒子はたった一つで太陽の1/1000万の質量。
・宇宙の質量が多いと、いつかは宇宙は小さく潰れる(ビッグクランチ)。少ないと、大きくなり続ける。
・天文学で一番難しいのは、距離を測ること。
・超新星爆発を観測して宇宙が70億年前から加速度的に大きくなっていることが分かった。それが暗黒エネルギーの影響だと考えられている。宇宙の72〜3%。しかも膨張するにつれて増えている。
・そのせいで、増え方が急だと、「ビッグリップ」という現象が起きる。
・その世界では、星もバラバラ、普通の物体もバラバラ、皆素粒子になるらしい。
・暗黒エネルギーは真空エネルギーという説。「借りてきたエネルギー」??
・もう、ここまで来ると、何が何やら。ビッグバンで借りられるエネルギーは、欲しい量と126ケタ違う。多数宇宙論で帳尻合わせ? 10の500乗の数の宇宙。
・暗黒物質の正体を突き止める研究がされている。装置名はXMASS。液化キセノンで捉えようとしている。大きい原子核で、希ガス元素なので純度が高く出来、暗黒物質とぶつかると光が出やすい。
第5章は「宇宙の始まりにたどり着く道」と題して。
・虚数の時間は、多分誰にも分からない。双曲線(実時間)と円(虚数時間)の関係らしいが、分からん。
・空間のゆがみを見ようとするKAGURAは、3キロの両側に鏡があり、測定すべき歪みは10のマイナス18乗メートル。
・ハッブル望遠鏡の1000倍視野のある望遠鏡で銀河の集まり具合を測定し、宇宙の成り立ちを知ろうとしている。暗黒エネルギーの解明も。

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