『銀翼のイカロス』(池井戸潤著、文春文庫)
誠実を超えて愚直な主人公は、今度は国家レベルの難題と立ち向かうことになる。社内の統制が取れていない帝国航空(全日空)。気分と浮動票だけで政権を地滑り的に取り、実は無能な政権与党(民主党)。()内はモデル。白井大臣は蓮舫か。主人公半沢はいつもどおり筋を通しつつ、渡真利らのネットワークを駆使し、策略も時として巡らし、政権与党のスキャンダルを暴き、事なかれの社内のバンカーを追及する。こういう生き方に憧れる人は多いが、現実はもっと複雑なのも50歳を過ぎれば分かる。だが、池井戸潤の作品には惹かれるのだ。
自分は愚直に生きているだろうか。ある種の誠実さは持っているつもりだが、それは愚直、だろうか。死後裁かれるという言葉があるが、カントも、そしてカントが『視霊者の夢』で批判したスウェデンボルグもそんなことを言っている。それは、良心を貫き通しているか、そして、貫き通すにはものすごい気力と体力が必要で、それを鍛えているか、ということだ。
歴史を見れば、結局の所愚直な者が勝つ。そこからずれたらいずれは負ける。中野渡頭取は引責辞任した。だが、彼は勝利者であろう。彼もまた誠実で愚直だった。
一方、毎度お馴染み?悪役wの黒崎という超有能な金融調査のプロが、ヒントを与えるところなんか心憎かった。実はとても良い人?
では、小説なので印象に残った言葉を。
「評価が定まるのは、常に後になってからだ。もしかしたら、間違っているかも知れない。だからこそ、いま自分が正しいと信じる選択をしなければならないと私は思う。決して後悔しないために。」(p418)
「疲れたな、たしかに。だが、頭取でなくなっても、私はバンカーであり続けるだろう。バンカーである以上、常に何かと戦っていかなければならない。」(p419)

0