『命の救援列車 ーー大阪大空襲の奇跡』(坂夏樹著、さくら舎)
大阪大空襲の下、深夜から早朝にかけて地下鉄が走り、多くの生命を救ったというのはにわかには信じられない話である。一部では都市伝説とさえ言われていたそうだ。だが、事実は小説より奇なり。本書は大阪交通労働組合所長の安藤孝氏と毎日新聞の記者(松本泉氏)の地道な調査により、全容を明らかにした。ターニングポイントは1997年の読者への情報呼びかけ。記者は多くを期待していなかったが、敗戦から52年、当時を知る人がどうしても言い残したい、という思いの籠もった情報が多数寄せられた。
本書は、証言を折り込みながら、何があったかを浮かび上がらせていく。空襲というものがどういうものか、立体的に描くのに成功していると思う。そして、この奇跡がどのように起こったのかがとても良くわかる。個人的にナイスと思ったのは、後に総理を勤めた佐藤栄作の判断。
いや、浮かび上がらせたのは空襲だけじゃない。近代の戦争(生活の場が前線となるという特徴)というものがどういうものかも浮かび上がっていた。人も物も欠乏し、少年少女が動員され、命がけで働かざるを得なくなる。物資が乏しく、修繕もままならない中、少年少女たちがギリギリの技量で、だましだまし命がけで地下鉄を走らせ、制動させる。空襲に遭っても、市電を守るためにギリギリまで粘る。そのまま犠牲になることもある。戦争の残酷さもリアルに描かれている。
本書は推理小説のように、普段の常識では考えられないこと「終電後に駅の扉が空いていた」「終電後に電気が流れていた」「空爆でも電車が走った」が、何故どうして起こっていたかを、謎解きしながら書き進めている。一気に読み進めたくなるスタイルであり、実際そのように読んだ。

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