『ホームレス中学生』(田村裕著、ワニブックス)
母親の死、続いて父親の病気、リストラによる借金苦に伴い、家族解散の憂き目に遭い、中学生にしてホームレスとなった少年のお話。時期が夏休み突入時であったために、家族以外に最初悟られず、近所の公園の「うんこ」(という名の内部滑り台付き遊具)に住み着く。奇想天外だが実にリアルな体験談。鳩と餌(パンの耳)の奪い合い、「うんこのお化けや」と子供に石を投げられる、水で空腹を紛らす、入浴代わりの雨、風に飛ばされてウンコまみれになったTシャツの話。基本的に大阪人のノリで笑わそうとしているのもあるが、この期に及んでの明るさ。
この著者が偉大だなあ、いや、著者の母親が偉大だ、と思ったのは、こういう状態なら小生の場合は絶対に『パンの略取』(クロポトキン)で己を正当化して泥棒をする。しかし、母親を悲しませてはいけない、という思いで、犯罪に手を染めない。ギリギリの情況で倫理を保つ人間が実在するという事実は今の世への快きアンチテーゼであり、大いに共感を読んでこの本は爆発的に売れたのだろう。
また、ツレの家で住むことになったとき、他所の子なのに家族同然で世話をされたツレの母親も偉大だ。そして、個人的にはK君の父親を思い出す(多分、ヤクザモンだろうな)、ツレの父親の振る舞い。人の家、自分の家というものを今ほどは分け隔てしなかった昔の日本、ひいてはアジアの風景が大阪の北の郊外には息づいてた。昔の市町を思い出した。過剰ではなく、粘性の低い人情。おしつけがましくなく、当たり前としての人情。宮崎学氏の言う「幇」の類型、これから求められる社稷がここにある。
周囲の好意により、兄弟3人で暮らすことになる。しかし、生活保護って、状況によっては返金しないといけないんだ。んで、300円/日の生活をやったり。バッシュがボロボロになってたり。兄に気を遣わせないといういじらしい配慮。高校生活や部活でくじけそうになったときの、兄の「母親に合わせる顔がなくなるから、続けろ」という話。等身大で生徒に接する工藤先生。「エエ話や!」と思わずにどうしろ? と。
オカンは偉大なのだ。

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