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2016/2/2

『わがはいは 猫である』 後編・・  文学

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『わがはいは 猫である』   ― 後編 ―

《いとう 文龍 13歳の創作小説》



急に扉が開いて、主人が入ってきた。

左手に新聞紙を持って、右手には盆に載せたコーヒーが二つ。

なんで奥さんが、後からコーヒーを持ってこないの? 私は、また夫婦喧嘩したなと直感した。

主人が着ている服は、今まで寝ていたものが急いで着替えてきたものらしい、ワイシャツのボタンがひとつづつずれている。

客は意地の悪い事に、これを注意しようともしない。

このまま、外に連れ出そうとするのだろうか。


どうやら、主人思いの私の出番になってきたらしい。

ソファーを降りて、主人のズボンの裾をガリガリと爪でかぐってみた。

そうすると主人は「また、食べ物をねだりに来たな! どこかに行ってろ」と吾輩を足でポンと蹴とばした。

せっかくの吾輩の行為を、無にするとは、腹が立ったのと、腹が減ったのとで情けなくなり、またソファーに寝そべることにした。

しかし、ほんとは主人を思っての事ではなく、腹が減ったのでちょっかいを出してみたのだが、主人の勘も相変わらず鋭い、今度は何かほかの方法を考えなくてはと思う。


主人は、私の前のソファーに、どっかと腰を降ろして、煙草に火をつけた。

客は、深々と腰かけたままで、話をしはじめた。

どうやら、この青年は、主人の学校の教え子になるらしい。


話は、文学論に発展していった。

「しかし君、わしはモーパッサンだけは嫌いだ!」

『えっ? なぜですか、私は大ファンですよ、なぜお嫌いなんですか!』

「そこだよ 君!」と、言いながら主人は体を乗り出してきたが、まだ、たばこの灰は落ちない。

さっきから、まだか まだかと待っているのだが、今日に限っては、なかなか落ちない。

主人は、話に夢中になるとテーブルの上にタバコの灰を落とす癖が有る。

毎日こんなふうだから、テーブルの上はもう焦げだらけになっているのである。


私は、とうとうあきらめて、窓の外を見た。

外には、何かしら広葉樹が一本立っている。

葉は、今が盛りとしきりに散り落ちている。

その落ち葉が窓の鉄格子に三枚引っかかっり、今はもう朽ちている。

その広葉樹の枝が二股になっている所に、とかげがチョロチョロと動いて、木の向こう側に行くのが見えた。


私は、のそっと立ち上がって、窓に飛びあがった。

後ろを振り返ってみると、テーブルの上にタバコの灰が二個所落ちている。

何を勘違いしたのかハエが飛んできて、その灰の上に止まったり、飛んだりを繰り返している。

外は、さほど暑くはない。

と、言っても室内もそんなには涼しくない。

なにしろ、窓を開けてクーラーを掛けているくらいだから、涼しくなるはずがない。

そんな無駄遣いをするくらいなら、私の食事にサンマのへそでも増やしてくれればいいと思っている。


また、とかげがさっきの所をチョロチョロと走った。

私は、何をするともなく窓を飛び降りて外に出た。

文学論は、ますます激しくなっていくのが聞こえる。

もう今頃は、たばこの灰が四つくらい落ちて、テーブルを焦がしている事だろう。

奥さんに見つかって、また夫婦げんかにならなければいいが。

サンマのへそが増えるどころか、私の食事自体が抜きになっても、困るんだが。


後編 ―― おわり


                  筆者   いとう 文龍



次号は

―― 前書き ――

世界における、すべての情けなさ、バカバカしさを、この一冊に集約。

世に自信をもって送り出す作品。

人間社会における悲哀を、教授という人間の姿を借りて、あなたの脳裏に映像する。

今若者の間で、人気絶頂の著者が放つ会心の“小傑作”


  『おや! 花びらが落ちたよ』


 続く・・・
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